製作に関する手法や解釈は当工房独自のものであり、一般的な正解を示すものではありません。
ひとつの考え方としてお読みください。
クロムエクセルのオイルブレンドと製法について
ホットスタッフド製法とは
クロムエクセルを語る上で欠かせないのが、Horween Leather Company が継承してきた「ホットスタッフド製法(Hot Stuffed Method)」です。高温に溶かしたオイルやワックスをドラム内で革に行き渡らせ、ゆっくりと撹拌しながら繊維の奥まで浸透させます。表面に塗るのではなく、内部に抱え込ませることで、しっとりした手触りとひび割れにくいしなやかさが生まれます。
この工程は完全自動ではなく、職人が気温や湿度、革の状態を見極めて温度・時間を調整します。数値化しにくい“勘どころ”を頼りに仕上げていく姿勢は、日本の伝統的な職人技にも通じるものがあると感じています。


※画像はイメージです。
オイルブレンドの独自レシピとその役割
ホーウィン社のオイルブレンドは企業秘密ですが、蜜蝋・牛脂・魚油・植物性オイルなど、性質の異なる素材を組み合わせていると考えられます。融点や粘度の違いが革の中で層を形づくり、折り曲げ時に油分がわずかに移動して色が明るく浮く「プルアップ効果」を生みます。表面的なツヤ出しではなく、内側からにじむ奥行きと艶がクロムエクセルの個性です。
特有の表情が生まれる理由(ブルーレザーとプルアップ)
クロム鞣しを終え、染色前の段階は「ブルーレザー」と呼ばれます。洗浄後に水分を多く含む繊維は淡い青みを帯び、鞣剤が定着したしなやかな骨格ができあがります。そこに染料やオイルが重なり半透明の層が生まれることで、内側から光を返す深みのある色調となります。
内部のオイルは繊維の動きに合わせてわずかに移動し、折り曲げ部分で明るいトーンが現れます(プルアップ)。塗られた艶ではなく、革そのものが内側から放つ艶──使用環境や温度、触れる頻度で変化し、同じ革でも使う人の数だけ表情が育ちます。まさに“十人十色”。あなたの時間が重なり、唯一無二の表情が刻まれていきます。


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三春レザーとしての理解と製作への応用
工房は福島県三春町にあります。冬の寒さと積雪、古民家を改装した建物ゆえの室温管理の難しさもあり、革の状態は季節で変わります。私は一枚ごとに状態を見て縫製条件を調整し、冬場はオイルが固くなりやすいため刃の入り方にも注意します。裁断面が荒れると磨き仕上げに影響するので、作業ごとに革包丁を研ぎ直し、床面の貼り合わせは段差が出ないよう丁寧に合わせます。
油分の多い革は水分の多い磨き剤が不向きなため、工房では独自の方法で艶を引き出しています(詳細は企業秘密)。また、私は革を“生きた証”として捉え、牛さんの小さな傷や虫刺され、血筋なども素材の個性としてできる限り受け入れます。完璧に揃えるより、その革が生きてきた時間を製品に残すことが、クロムエクセルと向き合う上での私の答えです。


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まとめと次回予告
ホットスタッフド製法とオイルブレンドが、クロムエクセルの手触り・艶・表情の核を形づくっています。その上で、使い手の生活や時間が重なり、唯一無二の表情へと育っていく──その過程にこそ、この素材の醍醐味があると感じています。
次回のVol.3では、クロムエクセルの経年変化とメンテナンスについて、私の考え方と具体的な向き合い方をお伝えします。
この記事の内容や、クロムエクセルに関する体験・印象がありましたら、ぜひコメントで教えてください。皆さまの声が、これからの記事づくりの参考になります。
また、三春レザーや製作に関するご質問・ご意見も歓迎しています。革が好きな方とゆっくり語り合える場所になれば嬉しいです。

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