製作に関する手法や解釈は当工房独自のものであり、一般的な正解を示すものではありません。
ひとつの考え方としてお読みください。
1. 手の感触から始まったクロムエクセル
はじめてこの革に手を触れた瞬間、今でもあの感覚をはっきり覚えています。
“ドキッ”とした。感動というより, 想定を裏切られた驚きに近い。
想像していた「レザーの手触り」とはまったく違っていて、手の平に残ったのは、オイルドレザー特有の密度と、繊維の奥からじんわりと伝わってくるしっとりした油分。
この革は内部までしっかりと油脂が浸透しているため、表面(銀面)をなでると、指先が吸いつくように滑る。
「なんだこのオイル感と柔らかさは?」――それが、私がクロムエクセルに出会ったときの第一印象でした。
それから工房でも商品として扱うようになり、もう数えきれないほど裁断し、縫い、磨いてきましたが、この革だけは、手を入れるたびに表情が変わります。
そして使い込むほどに、内部のオイルが少しずつ動いて銀面を整え、自然な艶が浮かび上がってくる。
その深まり方が、まるで人の肌のように“育っていく”のです。どんな表情に変化していくのか――それを確かめたくて、今も自分の手でクロムエクセルを触り続けています。
2. 経年変化は「手入れの賜物」
お手元に三春レザーの作品が届いたその日から、革とお客さまとの新しい物語が始まります。
そこから先の変化には、決められた正解も、決まった期間もありません。
すぐに表情が変わり始める革もあれば、数年かけてじっくりと深みを増していく革もあります。
それは、天然素材であるクロムエクセルという革が持つ、豊かな個性です。三春レザーが大切にしているのは、その変化の結果を急ぐことではありません。
その過程にある、日々の確かな関わり方です。
つまり「手入れ」という時間を楽しんでいただくことです。
独特な製法で仕立てられたこの革は、お客さまの関わり方次第で、どこまでも魅力的な表情を見せてくれます。
(※注:ホーウィン社のクロムエクセル・ブラック(茶芯)の製法については、ぜひ[Vol.1の記事]も併せてご覧ください)
お手入れといっても、特別なことをする必要はありません。
ただ、オイルが切れる前に、補ってあげる。
そのシンプルなことを、焦らずに、積み重ねてみてください。
数年経ち、その表情を眺めたとき。
「いい顔になった」と思える時が必ずきます。
それは誰かに教わった結果ではなく、その革と真っ直ぐに向き合ってきた時間が、まさに「お手入れの賜物」となります。
3. 毎日のお手入れにこそ、あなただけの顔になる
クロムエクセルはもともとオイルがたっぷり入っている革なので、オイルを足すのは半年とか一年に一度、ゆっくりしたペースで大丈夫です。
それよりも大事にしてほしいのは、日々革に触れて、その時々の状態を感じて欲しいことです。
クロムエクセルのようなオイルの含有量の多い革は温度でガラッと手触りが変わります。
寒いとオイルが固まって硬くなりますし、暖かくなればまた柔らかくなります。
そうした変化を「あ、今はこんな感じなんだな」と楽しみながら、日々接してあげてください。
- 使った後のお手入れ: 一日の終わりに、ついた埃をサッと拭くことが大切です。
- 保管: 使わない時や使い終わった後は、日陰の湿気が少ない場所で休ませてあげてください。
こういうことが、実は一番のお手入れになります。
四季のなかで、お客さまの大事な革に触れて、変化を見守りながら使い続ける。
そうして育った表情こそが、お客さまだけの唯一無二のアイテムです。
数年経ったときに「いい顔になったな」と思える。
そんな時間を、三春レザーの製品と一緒に歩んでもらえたら嬉しいです。
まとめ
メンテナンスとは、特別な工程をこなすことではなく、日々の小さな積み重ねです。
気温や湿度によって変わる革の感触を楽しみ、一日の終わりに埃を拭き、日陰の場所に置く。
そうした当たり前の関わりこそが、クロムエクセルという革を育てる唯一の道かもしれません。
無理に正解を求めず、あなたの環境で、あなたの手で、その変化をお楽しみください。

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